更新日:2020/03/03
倒産の危機を乗り越えたアコムの経営改革について調べてみた
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評価を設定してください ×2006年に日本中で大きく取り上げられたグレーゾーン金利問題は、当時売上も右肩上がりだった消費者金融業界にとって、経営そのものを揺るがす一大事でした。
この問題をきっかけに、各社とも巨額の赤字決算を計上。
大手中小を問わず、消費者金融業界の事業縮小、業界再編に繋がることとなりました。
それはアコムも例外ではなかったのです。
しかしアコムはこの逆風に負けず、厳しいリストラを行い、サービスを充実させ、何とか持ちこたえました。
問題発覚までの消費者金融業界
1990年代初頭のバブル崩壊以降、実に20年もの長い間、日本は不景気が続いていました。
その反面、消費者金融業界は右肩上がりの成長を続けていました。
大きな要因は、日銀の超低金利政策のおかげで、消費者金融業者が取引銀行から低金利で資金を調達できたこと、そのお金を、利息制限法が定める利率ではなく、刑事罰が適用される出資法の制限利息で貸し出すことで、大きな利ざやを得ることができたことにあります。
利息に関しては、利息制限法と出資法の二つの法律があります。
利息は、貸主と借主の間で自由に決められるものなのですが、行き過ぎを防ぐため、利息制限法で上限年20%(元本10万円未満は20%、10~100万円未満は18%、100万円以上は15%)と決められており、これを超えると民事上は原則として無効です。
一方、出資法では、上限を年29.2%と決めており(現在は年20%)、これを超えると刑事罰が適用されます。
このため、これまで長い間、ほとんどの消費者金融業者は、この20%と29.2%の間で金利を設定していました(いわゆるグレーゾーン金利問題)。
これは東証一部上場の大企業だけでなく、中小零細の貸金業者にも共通することでした。
自動契約機(むじんくん)の拡大やタレントを使ったCMも一つの要因だと思います。
また、消費者金融業の特徴は、なんといってもその敷居の低さにあります。
「サラ金」という俗語にもあるように、給料日前に手持ちがないとき、手軽に利用できるのが売りです。
しかし、担保を取らない分だけ貸し倒れリスクもあります。
無担保ローンの貸し倒れリスクの管理には独自のノウハウが必要で、その分だけ人件費や、各種システムの運用コストがかかります。
だから金利を銀行ローンより高く設定することで成り立つサービスなのです。
グレーゾーン金利問題の背景
しかし2006年になり、グレーゾーン金利問題がクローズアップされます。
その背景には、2004年2月と、2006年1月に、利息制限法を超える金利を事実上無効とする最高裁判決が出たことがありました。
結論から言いますと、それらの最高裁の判決により、「利息制限法を越える部分の金利は、払い過ぎ(過払い)であり、払い過ぎた分は過去にさかのぼって返金を要求できる」ことが法的に認められたのです。
これが消費者金融各社へ「過払い金」返済請求が殺到するきっかけになったのです。
問題が発覚した当初は、ここまで大きな事態になるとは考えていなかったと思われます。
しかし、判決の前後から、マスコミでも連日のように大きく取り上げられ、まるで消費者金融業者側がひどいことをしているかのような世論がつくられました。
当然、国会でも大きなテーマとして議論されました。
その結果、貸金業者の規制を強化し、借金問題を解決する目的で、2006年12月13日に「改正貸金業法」が成立、同20日に公布されました(経過措置を経て、2010年6月18日に完全に施行)。
この法律により、グレーゾーン金利(利息制限法の上限金利と出資法の上限金利の間)が撤廃されました。
つまり、貸出金利の上限が、利息制限法の上限である年15~20%まで引き下げられたのです。
さらに総量規制が導入され、年収の3分の1を超える貸付が禁止されました。
殺到する返還請求が経営の屋台骨を揺るがす事態に
世の中の雰囲気は一気に消費者金融けしからんとの空気に染まりました。
消費者問題専門の弁護士らで構成される「全国クレジット・サラ金被害者連絡協議会」が、マスコミを通じて返還請求を広く呼びかけたことも、過払い金返還請求に人々を走らせる結果になりました。
これが各社の経営を揺るがす事態になります。
大きな打撃を受ける消費者金融業者
消費者金融業界にとって、ここまで問題が広がることは予想外でした。
特にすでに完済した人まで返還請求の対象になったことは、まさに致命的。返済中の人や完済した人に返すお金など、もともと見込んでいるはずがありません。
勤労者の5人に1人が借りているとされる消費者金融業界では、そのインパクトの大きさに頭を抱えていました。
グレーゾーン金利撤廃の法律が公布された直後の2007年3月期の決算で、大手消費者金融4社(アイフル、アコム、武富士、プロミス)の赤字額は、1兆7000億円を超えました。
これは利息返還に備えた費用と将来の引当金が急増したため。
このうちアコムは、2007年3月期決算で、実に3500億円もの特別損失を計上、4400億円もの最終赤字を余儀なくされました。
しかしこれはピークではありませんでした。
2010年の改正貸金業法完全施行の年に、アコムは再び多額の損失を計上。2011年3月期決算は、約2026億円の最終赤字となりました。
1000億円規模の赤字を二度計上するのは、上場企業としては異例です。
アコムの必死の経営改革と今後の展望
アコムにとっても、過払い金の返還請求への備えは大きな痛手でした。
さらに、総量規制導入を見据えると、優良顧客を多く獲得し、少ない営業収入でも利益が出る体質を作らなければなりません。
そこでアコムはまず、他社に先駆けて、2007年6月に制限利率を12~18%(今は、3.0~18.0%)に劇的に引き下げることにしたのです。
これには業界に衝撃が走りました。アコムの狙いはどこにあったのでしょうか。
まずは、顧客サービスの向上でしょう。
貸金業規正法の上限利率よりも下げてしまえば、新規顧客を過払い金請求対象者にすることはありません。
貸付利息収入は減りますが、この分だけ、利息返還の費用を計上する必要がなくなるメリットもあります。
また、当時、アコムでも顧客の取引履歴を隠すなどの不祥事が発覚し、金融庁の立ち入り調査を何度も受けたこと、同業他社が金融庁から一部業務停止処分を受けたことなどから、アコムとしても率先して顧客の信頼を取り戻す必要もあったのです。
この後アコムは大規模な経営改革を進めていきました。
柱は3つです。
- 不祥事が多発したことを受けたコンプライアンス(法令順守体制)の強化
- 総量規制・新金利体系においても利益が出せるよう、コスト構造改革による経営の効率化
- 新たな成長戦略の構築
まずは不祥事を防ぐため、社内体制の強化と社外の有識者を招いたコンプライアンス委員会を設置しました。
また、有人店舗を135店舗削減し無人店舗に再編しました。
これにより700名程度の人員削減など、大規模なリストラを進めました。
また、関連グループ企業と重複する業務の見直しや、事務の効率化を進めました。
さらに、アジアを中心にしたローン・信販事業の拡大のほか、三菱UFJフィナンシャル・グループとの資本提携強化を進めつつ、相乗効果が見込める企業との業務・資本提携を進めていくこととしました。
これらの改革を顧客への貸し出し残高を減らしつつ、過払い金請求に対応しながら進めていくのですから、大変難しい取り組みだったと思われます。
全社を挙げた努力の結果、ピーク時の半分以下に貸付残高が減ったものの、2012年3月期からは利益を出し続けられるスリムな経営体質になりつつあるようです。
業界に先駆けてサービス向上を図ってきたアコム。
優良顧客獲得の厳しい競争の中で、顧客から最初に選ばれる会社になるために、今後も進化が期待できる企業です。
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