更新日:2015/07/08
夢を追う若者のパトロンになって大失敗。見る目の無さを痛感【体験談】
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評価を設定してください ×有名なレースに、ドライバーとして参戦したいという青年を援助するため、私はおよそ300万円を貸しました。
また彼が世に出るように尽力し、彼がレースの世界から追放された後も、彼の経営するお好み焼き店を手伝ったりします。
ところが逆に、私のせいで自分の仕事がうまくいかないと非難され、借金も返済してくれません。
現在も公証役場での話し合いを目指して、交渉中です。
体験者の情報
氏名:今井 優子(仮名)
性別:女性
職業:自営業
年齢:45歳
貸した相手:知人
合計金額:約300万円
時期:2008年3月
レーシングドライバーを目指す青年をサポート
当時私は、自動車の部品を製造・販売する会社に勤務し、資材・広報・営業など多くの部門を経験し、自動車業界に精通していました。
また仕事と趣味の両方で写真を撮ることが多く、やがて「これまで得た経験や知識を生かして写真関係の仕事がしたい」と思うようになります。
そして15年間勤務した会社を辞め、信用できるビジネスパートナーを探していました。
ネットのSNSでAとの出会ったのは、この頃のことです。
Aの経歴は「法学部を卒業して、レーシングドライバーを目指している」と書かれていて、「この若者となら、私の経験や知識を生かした仕事が一緒にできるかもしれない」と思いました。
こうしてネット上の交流から、やがて実際に会って話すようになります。
Aは司法試験に何度か落ちていました。
親は会社経営者で裕福な家庭だからか、甘やかされたお坊ちゃんという感じでした。
Aはレーシングドライバー志望でしたが、レースに参戦するには数百万円から数千万円の資金をドライバーが用意しなければなりません。
そのためにAは、たくさんの企業に、スポンサーになってもらえないかと打診していましたが、うまくいっていないようでした。
私は気の毒に思い、会社員だった頃の人脈を生かし、300社以上の企業や広告代理店に電話をして、面接する段取りをしてあげました。
そして、この時かかった電話代、関東近辺の企業訪問時にかかった交通費は、全て私が負担したのです。
しかし企業は、見ず知らずの人やモータースポーツに対して、そんなに簡単に大金を出すわけがありません。
そんなに甘い世界ではないと分かっているのに、「がんばれば報われる」と信じ込んで、現実から目を背けていました。
最初の不信感
なぜよく知らないAにそこまで尽くすのかと、疑問に思うかもしれませんが、彼のためだけではありませんでした。
会社を辞めて独立した私自身も、世間に認められようと必死だったのです。
そのためなら、このくらいの試練には耐えられる自信がありました。
今思うとくだらない意地です。
しかもAは、「レーシングドライバーになれないなら死ぬ」と言うことがありました。
脅しなのかもしれませんが、たとえ恋人や付き合いの長い友だちでなくても、「死ぬ」と言われればとても驚きます。
実際、「これから死にます、さようなら」というメールが来て、慌てたこともありました。
こうして私は、何とかAの願いを叶え、自分も新しい仕事の実績を残したいと、時間とお金を投資していったのです。
またAは、私の車も自分の車のように遠慮なく使うようになりました。
一度Aから「友だちが引越しで大きな荷物を運ぶから、車を貸してほしい」と頼まれたことがあります。
「何があるか分からないから、私も一緒に行く」と言っても、Aは「自分だけで大丈夫だから来なくていい」と言うので、その時は貸してしまいました。
ところが後日、車のトランクに傷をつけて返されたのです。
しかもAは知らんぷりで、謝罪も何もありません。
「レーシングドライバーを目指すぐらいだから」と信用していたのですが、実際はまともな運転もできなかったのです。
こうしたことからAに対する不信感はこの頃からありました。
この時はAと縁を切ろうと思えば簡単で、連絡しなければいいだけです。
しかしそれでもAの面倒見てあげたのは、やはり自分の「意地」でした。
私はこれだけの仕事ができる、と世間に認められたい一心からです。
そして「いつかAも反省して、しっかりした人間になってくれるだろう」と楽観していました。
レース資金をめぐり裁判になる
やがて私の努力が功を奏し、Aは知人を介して、日本最大のレースに参戦しているチームのオーナーと会うことできました。
しかしレースに出るためのお金がAにはありません。
すでにAはいろんな人に資金援助を頼んでいましたが、うまくいっていないのです。
結局、ある会社に私とAとで参戦のごあいさつをしに行った時、帰りの車の中で 「お金貸して」と言われました。
金額は270万円です。
私はこれを承諾してしまいました。
しかし今までいろいろ立て替えてあげたものを含めると、合計300万円ほどになっていたのです。
またこのレースの費用を負担するのが私だと、支払先のレーシングカーを所有するオーナーに知られた途端、先方から「○○円振り込むように」「振り込んだか」「いつ振り込むか」「何時頃になるか」と、まるで脅迫電話のように1日に何度も 私の携帯が鳴るようになりました。
これではまるで私が借金をしているみたいです。
私はお金を貸しているほうなのに、なぜこんなに追い詰められなければならないのか、疑問でした。
このようなことがありましたが、その後Aは念願叶ってレースにデビューし、雑誌やインターネットにも掲載されました。
ところが、また問題が起きます。
チームのオーナーが、「次のレースの参戦費用」として、新たに300万円を要求してきたのです。
前回支払った270万円には、次のレース費用も含まれているはずです。
こちらが300万円を払えないと言うと、オーナーはAがドライバーとして乗ることを拒否してきました。
こうしてAはオーナーに対して民事裁判を起こします。
モータースポーツというのは、莫大な運営費用がかかり、どんなに小さい部品1つでも10万円したりと高額です。また会計も不透明な部分が多く、業界内でまだ明確なルールが確立されていません。
「これを装備すれば勝てる」「レースの規則だから」などと言われれば、言われた通り支払うしかないのです。
まだ先のレースの費用までドライバーに要求するようなことも、モータースポーツ界では日常的にまかり通っていました。 悪く言えば、お金もうけをしたい方々にとっては、都合のいい業界です。
この裁判は結局Aの勝訴で終わり、チームのオーナーは分割払いでAにお金を返却することになりました。
オーナーの要求は、モータースポーツ界では常識でも、一般社会では非常識なことです。だからAが裁判に勝つことができたのでしょう。
お好み焼き店を手伝わされる
Aは裁判には勝ちましたが、モータースポーツ界からは追放されてしまいました。
そして本人もようやく世の中が映画のように思い通りにはならないと分かったらしく、それ以来「レーシングドライバーになれなければ死ぬ」とは言わなくなりました。
普通の大人なら誰でも分かることですが、Aはよほど実家で甘やかされて育ったのでしょう。
そしてある日Aは、知人の助言でいい物件が見つかったからと、都内のB市にお好み焼き店を開店すると言い出しました。開店資金は、祖父母や両親から調達したようです。
Aは同郷の男性を料理人として雇い、気がつけば私も店の経営を手伝うことを勝手に決められていました。
しかし私には、給料どころか交通費すら一切支給されません。
そして材料などの買い出しにも、Aは私の車を乗り回していました。
こんな扱いを受けても、私はAに 「誰よりも心配している」「気遣っている」と言われると、つい信用してしまいます。
店が流行りだし軌道に乗れば、少しは楽になるだろうと、この時私も甘く考えていました。
私が店のブログを開設してマメに更新し、得意なカメラを駆使して宣伝した甲斐もあって、雑誌やインターネット記事にも掲載されます。
しかし、最初は新しくできた店ということで評判でしたが、そのうちお客さんが1日に数名しか来なくなりました。
そのうち同級生の男性は、収入を確保するため、他の飲食店のアルバイトと掛け持ちするようになりました。
一方、Aは経営者でありながら店番はほとんどしません。
たまに店にやって来ては金庫からお金を持っていくだけです。
もっとも、店番は私か同級生の男性どっちか1人いれば十分なぐらい、お客さんは少なくなっていました。
私は閉店の夜9時まで働き、その後片付けをして、クタクタになりながら1時間以上も車を走らせて帰宅する毎日です。
おそらくAは、借金を返す代わりに私にこの店を譲るつもりだったのでしょう。
私は商売も嫌いではありませんが、Aから押しつけられたという気がして、店を譲り受ける気にはなれませんでした。
本来は飲食店の商売というのは、自分の意志で強い目標を持って、もっと長期間の修行をしてから店をオープンするものです。
店があるB市は飲食店の激戦区で、Aのような素人が競争に勝てるはずはありません。
さらに数ヶ月前から、人づてにAの噂が耳に入ってくるようになりました。
それもいいことではなく、詐欺師だとか人を裏切ったとか、悪いことばかりです。
このままでは、私まで何かトラブルに巻き込まれます。
Aとは縁を切らなければ、という気持ちが強くなっていきました。
それでもこの店から手を引かなかったのは、友だちの支えや、少数でも来てくださったお客さんがいたからです。
けれどもAは店が儲からないのが気に入らないのか、度々かんしゃくを起こし、常軌を逸した言動をするようになりました。
「お前がちゃんと働かないからだ」と、馬乗りになって押さえ込まれたこともあります。
とても息苦しかったのが忘れられません。
あの時、大声を出して助けを求めればよかったと今も思います。
多くの後ろめたい過去が、Aを追い込んでいったのかもしれません。
無免許運転で逮捕
モータースポーツ界からは追放されたAですが、実はその後もあるサーキットで日給1~3万円くらいで運転のインストラクターをしていました。
レーシングカーと同じような速い車が大好きな、富裕層の方々が生徒です。
しかしこれも、毎日まじめに働いていたわけではありません。
口では「おれは仕事で大変なんだ」と言いながら、実際は昼間からキャバクラで飲み歩いたりしている日の方が多かったようです。
お好み焼き店の方は私に任せっきりです。
こんな生活がいつまで続くのかと思っていたある日、私の親が「誰かに脅迫でもされているのか」と聞いてきて驚きました。
Aのことは何も話していなかったのですが、表情を見ただけで私が何かに追い詰められていると分かったのでしょう。さすが親です。
お好み焼き店を開店した夏から数ヵ月が過ぎ、季節は秋になっていました。
Aとは最低限必要な連絡事項を電話で伝えるだけの関係になっていたのですが、ある夜、携帯にかけても長時間つながりません。
しかたないので、Aの実家に電話してみました。
すると、「Aが警察に逮捕された」というのです。
Aの親から「誰にも言わないでくれ」と言われましたが、こちらは世間体など気にしている場合ではありません。
そしてAの知人の男性から、逮捕の詳しいいきさつを聞くことができました。
Aが乗っていた車のナンバープレートの電球が切れていて、検問中の警察に呼び止められたそうです。
そしてその時Aの免許証が実は偽造した物だと判明したのです。
Aは昔、何度か違反をして免許取り消しになっていました。
しかしレーシングドライバーとして出場するためには、免許を再取得しなければなりません。
Aは10万円くらいで精巧な偽物を作ってくれる違法な業者をネットで探し、免許証を偽造していたのです。
しかもその偽造免許証の写真は、以前にAから頼まれて私が撮影したものでした。免許の更新に使うと思っていたのが、 犯罪に使われてしまったのです。
後日、私は警察署に面会に行きました。
そして留置所にいる彼を見て、ようやく私は呪縛がほどけたのです。
私はこれまで自分をだまし、無理してAのことを「この人はいい人だ、がんばっている人だ」とかばっていたことに気が付きました。
後に、Aが私のことを陰で「あいつは便利な奴だ」と言っていたと知人から聞きました。
本来、ビジネスの関係ですから、他人に対して「便利」とか「利用する」という表現を使うのはしかたない場合もあります。
しかし私は、友だちとは信頼しあえる関係でいたいのです。
他人の言いなりにならず、自分に正直に生きるべきだと、やっと目が覚めました。
私がお好み焼き店の経営に苦労していた時期、Aには彼女ができていました。
とうとう閉店することになった時、その彼女から「閉店しないで続けてくれ」と、泣いて頼まれましたが、私はもうその店にもその街にも二度と行く気にはなれません。
彼女は、Aが留置されている警察署に何度も通ったそうです。
前科者と付き合うのは相当な覚悟が必要です。
留置場に面会に行くだけでも、世間に何を言われるか分かりません。
しかしAと彼女は、後に結婚したそうです。
恋愛感情とは強いものだと、感心しました。
私にはまずそういうことはできないし、犯罪を犯す可能性のある人には、もう近づきたくありません。
借金は返済されないまま
Aの裁判は、執行猶予付きの判決が下りました。
その後Aから連絡は来なくなりましたが、しばらくして会社の経営者になったと聞きます。
Aを担当した弁護士の事務所に連絡してみましたが、個人情報だからと、詳細は教えてくれませんでした。
インターネットでAの名前を検索すると、「霊感商法に関わっている」「ダミー会社」など、怪しげな情報ばかりが掲載されています。
その後、共通の知人がAに忠告してくれたおかげか、2012年の5月、7月、9月にそれぞれ10万円ずつの振込がありました。
しかし当然ながらこの金額では全然足りませんし、それ以降はまったくお金を返してくれません。
いろんな方に恥をしのんで相談したら、「公証役場に行って返済内容を公正証書にしてもらったら」という助言をもらいました。
人にお金を貸した時に公正証書を作っておくと、相手が借金を返さなかった場合に裁判なしですぐに差し押さえができるのです。
Aには「話し合いの場を持ちたい」とメールで伝えましたが、会う日を決めても直前にキャンセルされたり、ずっと逃げられています。現在も、まだ面会できていません。
Aの親にも事情を話し、公正証書を作るのに必要なので保証人になってもらいたいと頼みました。
けれども「息子は30歳を過ぎているのだから、いずれ自力で借金を返すだろう」と楽観的なことを言うばかりで、引き受けてくれません。
こんな状態なので、未だに公正証書を作成できずにいます。
現在の仕事が落ち着いたら再度、第三者を交えて話し合いをするつもりです。
後日Aから、「なぜ勝手に親にバラしたのか。非常に迷惑だ」という内容のメールが来ました。
しかし、貸したお金を返してくれないAのほうがよほど迷惑です。
なぜ彼の言いなりになったのか?
なぜ私はあっさりとAにお金を貸し、言いなりになってしまったのでしょうか?
当時の私は、インターネットで知り合う人物が信用できるかどうか、判断できない未熟な人間でした。
そしてだまされているかもしれないと思っても、きっぱりと縁を切ることができない弱い部分もあったのです。
またAは自分の思い通りに人を動かさないと、気が済まない人間でした。
後になって分かったことですが、Aは他人を思い通りに動かす方法を、ネットで徹底的に学習していたのです。
Aも弁護士を目指していたぐらいなので、やはり頭はいいようです。
ただ、その高い知能も使い道を誤ると、武器や凶器になります。
当時の私は、Aがどれほど危険人物か分かっていませんでした。
そして基本的に、知人にお金は貸すべきではありません。
やむを得ず貸す場合でも、返す意志のある真面目な人物を見極めなければいけないでしょう。
そして金額の多少にかかわらず、ルーズな人とは今後一切関係を断つ強い意志も必要です。もしその人が不祥事を起こした場合、本人同士だけでなく他の知人や家族にも迷惑をかけてしまいます。
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