更新日:2020/05/30
元刑事が教える口座売買バイトの危険性。一般人が普通に逮捕・勾留されます
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「キャッシュカードを高く買いますよ!」
あなたもこんな求人を見かけたことはありませんか?
実はこれ、犯罪の仲間を集めるための広告なんです!!
最悪の場合、犯罪者として警察に逮捕されてしまう危険もあります。
このような犯罪は『口座買取』や『口座売買』と呼ばれ、気軽にお小遣いがもらえるということで手を染める人が多いのですが、実は非常に危険なアルバイトなんですね。
でも、口座を譲っただけで犯罪の仲間になってしまうって、どういうことなんでしょう?
まして警察に逮捕されてしまうなんて・・・
こんにちは。
お金を学べる情報ポータルサイト、ファイグー編集部のささき英雄です。
今回は一般人が手を染めやすい犯罪のひとつ、『口座売買』を特集していきます。
銀行口座の不正利用によって利用停止(強制解約を含む)された件数は、平成28年度で55,838件にも上ります(全国銀行協会によるアンケート結果)。
この犯罪のコワイところは、知らず知らずのうちにあなたの銀行口座が犯罪に使われ、最悪の場合、あなたが逮捕されてしまう点にあります。
急に警察に押しかけられ、そのまま身柄を拘束。そして勾留・・・
そんな事例が実際にあるんです!
そこで今回は、元刑事の高木さん(仮名)が過去に捜査にあたった犯罪の事例をもとに、口座売買の危険性について解説していくことにしました。
口座を譲るだけで逮捕されるなんて、にわかには信じられないですよね。
まして、本人は口座を不正に利用された側ですから、むしろ被害者ともいえます。
ここでポイントなのは、口座を譲渡しても犯罪に問われるケースとそうでないケースがあるということ。
今回はそのあたりも解説していきますね!
それではさっそく高木さんにお話を聞いていきましょう!
-
ささき 英雄編集者
七夕生まれ、編集・ライティング歴10年。前職ではグルメ雑誌の制作に携わっていましたが、30歳の誕生日をきっかけに独立しました。ファイグーでは「自分の仕事は書くことではなく伝えること」という意識で記事に取組んでいます。担当記事は、利息や審査などライバル記事だらけのテーマが多いです。そのため、「他のどの記事よりも正しい」のは当然として、さらに「どうすれば読みやすくなるか」を日々追求しています。
口座を譲っただけで詐欺罪!手軽な仕事の落とし穴
まずは、元刑事の高木さんが実際に担当した事件から、口座売買の実態を確認していきます。
たった一度の口座売買で有罪判決!
九州の片田舎に住む望月さん(仮名)は、25歳のフリーター。
週5日のアルバイト以外の時間は、パチンコをやるか寝ているかという生活です。
ちょっとだらしない部分はありますが、決して悪さをするような性格ではありませんでした。
そんな望月さんが突然、振込め詐欺の共犯者として逮捕されてしまったのです。
生活苦で手を出した「短時間・高収入」の仕事
1週間前から連日のようにパチンコで負け続けていた望月さんは、生活費をギリギリまで切り詰めて日々を過ごしている状態でした。
そんなときにインターネットでたまたま見つけたのが、『短時間で高収入!』と書かれた仕事。
「とりあえず話を聞くだけなら」と、望月さんは業者に電話をしてみました。
業者に説明された内容は次のとおり。
- 銀行で普通預金口座を新たに開設する
- 開設した口座は1万円で買取る
- 開設後、預金通帳とキャッシュカードを指定住所に送る
もちろん、「開設した口座が何か悪いことに使われるのでは?」という懸念はありました。
しかし、口座を他人に渡したからといって自分がお金を奪われるわけではありません。
また、口座をつくって送るだけでいいなら、こんなに簡単な仕事はありませんよね。
望月さんは30分ほどで口座開設の手続きを済ませ、指示された通り通帳とキャッシュカードを宅急便で送りました。
3日後、通帳とキャッシュカードがきちんと届いたようで、望月さんがもともと持っていた銀行口座に1万円が振込まれていたのです。
忘れた頃にかかってきた銀行からの電話
その後の望月さんは、口座を買取ってもらう仕事に味をしめる・・・ということもなく、これまでと同じようにアルバイトとパチンコの日々を過ごしていました。
すると、通帳とキャッシュカードを送ってから2ヵ月が経った頃、知らない番号から電話がかかってきたのです。
電話は、2ヵ月前に口座を開設した銀行の支店からでした。
「重要なお話がございますので、支店までご来店いただけますか?」
何のことかわからないまま支店まで出向いた望月さんを待っていたのは、深刻な表情をした銀行員でした。
先日、当支店で開設した普通預金口座の通帳とキャッシュカードはお手元にありますか?
今ちょっと、知人に貸しているんですよ
と、平静を装って切返した望月さんでしたが、内心は気が気でありません。
実は、望月さんの口座に、ここ数日で複数の人から数百万円単位の振込があるんです。
しかも、振込まれたお金はすべて、関東近辺のコンビニATMですぐに引出されています。
これ、振込め詐欺の典型的なパターンですよ!本当に知り合いに貸しただけですか?
正直にいってください!
徐々に語気が強くなっていく銀行員に対して、言葉を失ってしまった望月さん。
不意にポンと肩を叩かれて振り返ると、そこにはスーツ姿の男性が3人いました。
「管轄の警察署の者なのですが、ちょっと警察署で事情を聞かせてもらえますか?」
逮捕!そして有罪判決へ
望月さんは、そのまま警察署へ移動して取調べを受けることに。
その日の夜には逮捕状が発付され、一時帰宅を許される間もなく逮捕されてしまったそうです。
逮捕後に行われた取調べにて、望月さんは「自分が振込め詐欺グループの一員ではないこと」「口座が振込め詐欺に利用されるという認識はなかったこと」を強調しました。
しかし、取調べを担当した刑事は「振込め詐欺へ加担する意思があったかどうかは関係ない」と、望月さんの主張を一蹴しました。
なぜなら、望月さんが逮捕された理由は『銀行に対する詐欺』だったからです。
約20日間の勾留を経て望月さんに下されたのは、詐欺罪の有罪判決(執行猶予3年)でした。
全国的に振込め詐欺が横行している時期だったこともあり、望月さんは『振込め詐欺の共犯者』として地元の新聞紙面を賑わすことになります。
当然、アルバイトは解雇されましたし、仕事をしたくても望月さんを雇ってくれるところはありませんでした。
なぜ、口座売買で逮捕されてしまうのか?
結果的に振込め詐欺へ関与することになってしまった望月さん。
ただ、望月さんがしたのは『銀行口座の開設』のみです。
どうしてこれが詐欺罪となってしまうのでしょうか?
元刑事・高木さんのお話をもとに、ポイントをまとめてみました。
罪に問われたのは『口座開設の目的』
まずは望月さんの行動を整理してみましょう。
- 1インターネットで『短時間で高収入!』と書かれた仕事を見つける
- 2仕事の内容は『銀行口座の開設』と『通帳・キャッシュカードの送付』
- 3指示通り、銀行で口座を開設
- 4指示通り、通帳・キャッシュカードを指定された住所に送る
- 5後日、報酬(1万円)が振込まれる
ここで最初のポイントです。
原則的に、開設した口座は名義人のみ使用することができます。
名義人以外の口座使用は規約違反です。
つまり、望月さんのケースでは、『最初から通帳・キャッシュカードを他人に譲り渡すことを目的に、銀行口座を開設したこと』が、銀行に対する詐欺にあたります。
詐欺罪の刑罰は10年以下の懲役で、罰金はありません。
ちなみに、窃盗罪の刑罰は『10年以下の懲役または50万円以下の罰金』です。
お金で償うことは許されません。
『口座売買=詐欺』となったのは2007年から
『口座売買が詐欺にあたる』という解釈は、2007年頃から始まったものです。
それ以前は、口座売買は明確に詐欺とはみなされていませんでした。
しかし、「振込め詐欺撲滅のために、犯行ツールである不正口座開設も処罰する」という解釈が生まれ、現在ではそれが定着しています。
理由は、振込め詐欺に不正口座を使用するケースがあまりにも多いためです。
口座売却による詐欺の検挙数は2016年上半期だけで153件(136人)。
口座売却に手を染める人が後を絶たない状況が続いています。
口座譲渡で罪に問われるケースと問われないケース
たとえば、口座名義人もだまされて、口座が不正利用されることもありますよね。
こういった場合にどうなるのでしょう?
借金の担保として預けた口座が詐欺に使われた
ある日、40代主婦・坂本さん(仮名)のところへ警察署から電話がかかってきました。
「坂本さんの口座が振込め詐欺に利用されているのですが、心当たりはありませんか?」
身に覚えのなかった坂本さんですが、1つだけ思い当たることがありました。
3ヵ月前、坂本さんは生活費が足りなくなってしまい、インターネットで見つけた金融業者へ借金を申込んでいたのです。
その際、完済するまでの担保として預金通帳とキャッシュカードの提出を求められました。
「夫婦共同で使っている普段の口座を預かられてしまうと、夫に借金がバレてしまう・・・」
そう思った坂本さんは、近所の銀行で新たに口座を開設。
その通帳とキャッシュカードを金融業者に送ることで、金融業者から融資を受けました。
その口座が振込め詐欺の振込先として使用されていたわけですね。
結局、坂本さんは警察から事情聴取を受けることになってしまったのですが、この場合、坂本さんが罪に問われる可能性は低いです。
詐欺罪適用のポイント
先ほどの望月さんの事例をみると、このケースも詐欺罪に該当しそうな気がしますよね。
坂本さんが口座を開設した目的は「借金の担保として預けるため」。
本人が使用するために解説したわけではありません。
しかし、坂本さんは罪に問われませんでした。
どちらも、
- 本人が使用することを目的とせず
- 口座が振込め詐欺に利用された
望月さんの事例とよく似ています。
なぜ、望月さんだけが詐欺罪となってしまったのでしょうか?
他人への口座譲渡は犯罪
詐欺罪にあたるかどうかのポイントは主に以下の2つです。
- あなたの口座であなたになりすまし送金または着金する目的を知っていたかどうか
- 有償無償を問わず、預金通帳やキャッシュカードを譲渡・交付・提供したか
望月さんの場合、口座が犯罪に使われる可能性を予想はできました。
とはいえ、「詐欺に使う」と説明されたわけではないので、ここはグレー。
どこが法に触れるのかというと、あらかじめ業者から『口座を買取る』と説明をうけたうえで、通帳とキャッシュカードを売却した点です。
譲渡・交付・提供など、相手が自由に使える状態で口座を譲渡すると詐欺罪に問われてしまいます。
ちなみに、望月さんのようなケースで、「預金通帳とキャッシュカードをいつのまにか紛失していて、紛失の連絡も忘れていた」と言い訳をする人も多いです。
しかし、そこは警察もお見通し。
なぜなら、
- いつ口座が開設されたのか?
- いつどこからお金が振込まれているか
- いつどこのATMからお金が引出されているか
この三点が銀行から警察へ共有されるからです。
本当に通帳やキャッシュカードを紛失しただけなのか、不正に開設された口座なのかは、これは履歴を見れば明らかですよね。
口座開設直後にいきなりバンバン入金があるということは、口座開設直後にキャッシュカードを紛失し、そのままスムーズに不正利用されたということになります。
これは明らかに不自然です。
担保として口座を預けても罪には問われない
一方、坂本さんの場合、通帳とキャッシュカードを「担保として預けただけ」です。
これは、売却・交付・提供には該当しませんし、「金融業者が自由に使ってもいい」という前提で預けたわけでもありません。
このケースでは、坂本さんも振込め詐欺グループに通帳とキャッシュカードをだまし取られた被害者の立場になります。
そのため、「担保として預けただけ」という事情をきちんと説明できれば、詐欺罪で処罰されることはまずありません。
ただ、そのためには以下の資料を準備して、振込め詐欺に加担していないことを証明する必要があります。
- 金融業者の電話番号
- 電話の発信・発着履歴
- 金融業者とのメール
- 通帳やキャッシュカードの送付先(伝票の控えなど)
元刑事が語る「口座売買のターゲットになりそうな人」
次は、元刑事・高木さんの経験から、口座売買のターゲットになりやすい人の特徴を教えてもらいました。
収入が不安定または低収入の人
口座売買の求人は、インターネット上でまるでアルバイト情報のように掲載されています。
新聞の求人欄で口座売買を募集していた事例もあるぐらいです。
「カンタンに稼げる!」といった誘い文句が特徴なので、次のような低収入の人は要注意です。
- フリーター
- 主婦
- 学生
もちろん、安定収入のある正社員や公務員が手を染めることもありますよ。
借金問題を抱えている人
坂本さんのケースでは、申し込みした金融業者が振込め詐欺グループとつながっていました。
そのため、多重債務者など『正規の金融業者から借入れができない人』が口座売買のメインターゲットになります。
法外な利息をむしり取られ、さらに口座売買の罪に問われる・・・なんて最悪ですよね。
口座売買に巻き込まれないために
口座売買に関与しないためには、他人が勝手にあなたの口座を使用できる状況をつくらないことが大事です。
口座を他人に渡さない
まずは次の2つは厳守してください。
- 自分が使用しない口座は開設しない
- 口座を第三者に渡さない
口座売買による報酬は、どんなに高くても5万円前後です。
犯罪に手を染め、詐欺罪に問われる危険があるのに、得られる報酬はわずか5万円。
普通に考えれば、割に合いません。
口座はけっして他人に渡さないようにしましょう。
違法業者に関わらない
違法業者との関わりを完全に断つことも重要です。
たとえば、違法金融業者から一度でも借金をすると、『お金に困っている人』として名簿に登録されます。
そして、この名簿は違法業者から違法業者へと流れるんです。
名簿が口座売買を斡旋する業者に渡れば、勧誘の電話がかかってくることもあります。
どんなに困っても違法な業者には絶対手を出してはいけません。
通帳やキャッシュカードを紛失したらすぐに口座を停止する
紛失した通帳やキャッシュカードが、詐欺に悪用されてしまう事例もあります。
紛失に気づいた場合は、すぐに通帳とキャッシュカードを停止してもらいましょう。
普段遣いしている口座はもちろん、まったく使っていない口座でも必ず停止の手続きをとってください。
万が一、すでに口座を第三者に渡してしまっている場合は、すぐに口座を停止・解約しましょう。
まとめ
最後に、今回の記事のポイントをおさらいです。
口座売買が罪に問われる理由
- 銀行をだましたことになるから
- 本人以外の口座利用は規約違反
- 他人が使用する前提での口座開設は違法
- 通帳やキャッシュカードの譲渡・交付・提供は違法
- 詐欺罪は10年以下の懲役刑
口座売買のターゲットになりそうな人
- 収入が不安定または低年収の人
- フリーター
- 主婦
- 学生
- 借金問題を抱えている人
口座売買に巻き込まれないためのポイント
- 自分が使用しない口座は開設しない
- 口座を第三者に渡さない
- 違法業者には関わらない
- 通帳やキャッシュカードを紛失したらすぐに口座を停止する
- 他人に渡した口座はすぐに停止・解約する
多くの人は、「簡単にお金がもらえるから」というだけの理由で口座売買に手を染めてしまいます。
しかし、「逮捕される」と事前にわかっていたらどうでしょう?
口座売買をしようなんて思いませんよね。
みなさんにお願いしたいことは2つです。
まず、口座売買には絶対に手を出さないでください。
そして、身近に口座売買をしようとしている人がいたら、きちんとリスクを伝えたうえで止めてあげてください。
世の中にそうウマい話なんてないのですから。
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